まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン

ストーリー
隣接するキオカ共和国と戦争状態にある大国、カトヴァーナ帝国。
その一角に、とある事情で嫌々、高等士官試験を受験しようとしている一人の少年・イクタが住んでいた。
戦争嫌いで怠け者で女好きとして評判のよくないイクタだったが、少しずつその才能の片鱗を現してゆく……。



怠け者の少年イクタが、のちに名将と呼ばれるようになるまでの軌跡を描いたファンタジー戦記。
あらすじに惹かれて手に取りましたが、期待に違わぬ面白さでした。
作りこまれた世界観、キャラクターたちそれぞれの魅力と活躍、戦略と戦術を存分に用いた軍と軍とのぶつかり合い。
読み口は決して重くないけれど、芯の部分にはどっしりとしたものが備わっている作品だと思います。


まずなにより、次第に明らかにされていくイクタの奇才に惹かれますね。
いつもぐうたらで、怠けられるものならばできるだけ怠けるような彼ですが、いざ窮地に追い込まれたときの思考の鋭さ、視野の広さ、科学的思考、そしてそれらから先を読み、打開する方法を導き、行動に移す度胸は、どれをとっても一級品で、思わず惚れぼれします。
人間的にちょっとダメな部分があるから、周りからは侮られやすいのだけれど、この才能を前にしては、さすがに周囲も気付かざるをえない。そう、彼が、正真正銘の天才なのだということに。
どれだけ活躍しても、決して驕ったり調子に乗ったり、昇進を望んだりせずに、ただ楽をさせてくれ、というようなスタンスでいるあたりに好感が持てます。
それでいて、実は自分の価値観をしっかり持っていて、身分の差など考えず激情を爆発させてしまうところなんかもあるし、読めば読むほどに、初めは見えなかった魅力がどんどん表に出てくるのが、ずるいなあと思いました。


イクタとともに行動するキャラたちも、ひとりひとりがしっかりと描かれていて良いですね。
ヤトリはひたすらに格好良かったです。白兵戦での獅子奮迅の戦いぶりも、サバサバして裏表のない性格も見ていて気持ちがいい。
イクタの態度には呆れ返っているけれど、実は彼の一番の理解者であるあたりにも、彼女の本質的な優しさや、表面だけを見て判断しない堅実さが表れているのではないかと思います。
軍人としても、そのカリスマ性を発揮してあっさりと高みに上り詰めていきそうな感じ。イクタとのコンビが最強すぎて、そのビジョンが明確に見えてしまうあたりに空恐ろしさを覚えますね。
それから、作中でイクタと並ぶ重要キャラになっていきそうなのが、麗しきシャミーユ姫殿下。
まだ12歳という歳ながら他者を従えるその威厳は、さすが皇族といったところでしょうか。
基本的には理知的でありつつ、年相応に子供らしい部分もあって、イクタにいちいちいじられているのが可愛くて仕方ない。
かと思いきや、ふとした隙に予想外の行動で意表をつかれるので、なかなかに油断のならないお子様ですね。


模擬戦から終盤にかけての盛り上がりが素晴らしかったです。ちょっと敵が小物すぎたような気もしますけど! まあ、これを“名将”イクタのデビュー戦とするならば、これくらいでちょうどいいのではないでしょうか。
トルウェイも、マシューも、ハロも、みんないいキャラをしているし、イクタとヤトリを加えた5人の関係がこれからどう移り変わってゆくのか、きちんと見守っていきたいと思います。ハロは癒し。
そして何より、イクタとシャミーユの今後が気になりますね! 姫殿下の秘めたる野望を、イクタはどのようにして実現していくのでしょうか。続きが楽しみでなりません。


イラストはさんば挿さん。イクタの楽天主義っぽい顔つきが妙にハマっていますね。
モノクロイラストは多少ブレがあるような気がするけれど、血まみれのヤトリは迫力があって良かったです。


読み終わってからようやくアルデ「ラミ」ンだと気づきました。アルデ「ミラ」ンだと思ってたよ……。