まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

消えちゃえばいいのに

消えちゃえばいいのに (富士見ファンタジア文庫)

消えちゃえばいいのに (富士見ファンタジア文庫)

ストーリー
美術部に所属する朝倉一樹は、ある日、他の部員四人から続けざまに「好き」と告白されてしまう。
そしてその同日、唯一の肉親であり著名な画家である祖母が亡くなっていたことを知る。
生活が一変した一樹の前に突如現れた死神の少女モルは、一樹のために「百人が殺される」のだと告げ……。



あらすじと表紙イラストに惹かれ、問題作との評判を聞いて、読んでみることにしました。
とりあえず、「ストーリー」の文面にこれだけ悩まされたのは久しぶり。物語の出だしの部分を羅列するとこうなるのですが、これだけ読むと何がなにやらですよね。
でも、実際に読んでいても序盤はそんな感じでした。いえ、終盤で謎が明かされるまではずっとそうだったかもしれません。
告白、祖母の死、死神の登場。そして「殺される」百人の名簿。いきなりインパクトのあるできごとが連続する上、お互いに関連性が見出せないから目が回ります。
だから余計に、この一連のできごとに隠された秘密が知りたくて、先へ先へと読み進めてしまいました。
章立ての仕方がまた独特で、「0ノ1」「3ノ8ノオモテ」などと意味ありげな分け方で細かく区切られた各章が、何とも言えぬ不気味さを演出してページをめくる手に拍車をかけます。
わけが分からないのに読ませてしまうって、凄いことなんじゃないでしょうか。全部で400ページ近くあるのに、あっさりと読み終わってしまった印象です。


4人からの告白! ドキドキハーレムの開幕にふさわしいイベントですが、そっちの方面に行く気配はまるでありません。もちろんはなっから期待してませんでしたけども!
ヒロインいっぱいの恋愛模様の代わりに描かれていくのは、一樹の周りで次々と起こる100人の死。このチェンジはひどい。
モルから渡された名簿の通りに、一樹と関係した人々が死んでいく。もっとはっきり言うなら、殺されていく。
だれそれは刺殺され、だれそれは撲殺され、だれそれは事故に遭う。ひとつひとつは痛ましい死なのに、ショックを受ける暇もなく次の死が訪れるものだから、読んでいるこちらも、次第に心が震えなくなっていく。
心に欠落を抱えた主人公と同じように、いつの間にか淡々と死を眺めるだけになって、気付くと「次は誰がどんな風にして死ぬのかな」なんて考えてしまっていて、自分にぞっとすることもしばしばでした。
多くの死に触れながら平然としている一樹の一人称も相まって、これだけの死を描いておきながら、不思議なほどに話を重く感じない。それが逆に、主人公の異常性を表しているように思えて、空恐ろしくなります。
今ストーリーを振り返ってみても、あまり山や谷があったように思えないんです。戦争でもファンタジーでもない、ごく普通の現代のお話で、100人も死んでいるのに!
死が、エンターテイメントでさえない、ただの日常としてあることの怖さに、読み終わってから気付かされました。


明かされる犯人と、事件の全貌。そして一樹の秘密。犯人像には思わずゾクゾクしてしまいました。秘密に関しては、まあ、なんとなく予想はついていましたけれど。
まるで関係ないように思えたあれこれも、裏で全てひとつの流れに繋がっていたのですね。お話のテーマ(?)も、多分100人の死ではなくて、別の部分にあったのでしょう。
さりげない伏線もちらほらと見られましたから、もう一度読み返したらまた新たな発見や味わいがあるかもしれません。
読むとまた精神的にげっそりしそうなので、あんまり読み返したくはないような気もしますけど……。


イラストは東条さかなさん。なんといっても表紙が素晴らしい。挑発的な三矢さんの視線に心を撃ち抜かれました。
本文中、イラストの数は多くないのですが、一枚一枚がそれぞれ印象的だったと思います。


真のヒロインは西島……ではなく、やっぱりモル、かなあ。