まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

脱兎リベンジ

脱兎リベンジ (ガガガ文庫)

脱兎リベンジ (ガガガ文庫)

ストーリー
「宇宙人」と揶揄され、友達もいない内気な高校生・兎田晃吉。
軽音楽部に所属する兎田だが、文化祭前なのにバンドを組む仲間もなく、イケメン部長・志鷹の嫌がらせで練習場所さえない始末。
そんなとき、偶然出会った漫研の部長・兎毛成結奈に発破をかけられ、兎田は世界へのリベンジを遂げるべく立ち上がる……。



第5回小学館ライトノベル大賞<ガガガ賞>受賞作品。
他人から蔑まれ、虐げられてきた冴えない男の子が、自らの武器であるギターを片手にクソッタレな世界へ宣戦布告する、清々しい青春ストーリーです。
あまりの評判の高さに、いつか読もう、いつか読もうと思いつつ、いつの間にか半年も経ってしまっていました。読めてよかった。


この作品の一番の魅力をひとつ、挙げるとするならば、とにかく気持ちいい。それに尽きます。
内気な性格やしゃべり方のせいで、周りから見下されている主人公・兎田。
類稀なギターの才能を持っているのに、それすら誰からも認められず、自分に自信が持てずに、所詮負け組だからと、すっかり諦めてしまっています。
そんな彼が出会ったのは、兎田と同じように、世界から誤解されたり、否定されたりしながらも、自分を貫いて生きている兎毛成たち。
兎毛成も、乃ノ香も、お菊も、金シュロも、それぞれ凄い能力や、確固たる自分を持っていて、周りの評価なんて毛ほども気にしないで、まっすぐに生き抜いていて、実に格好良いんですよ。
うじうじと鬱屈した思いを抱えていた兎田が、そんな風に輝き続ける彼女たちに感化されて、前を向き、そして間違った世界を自分から変えてやるために、勇気を出して一歩踏み出す。そんなさまに、胸が熱く震えます。


兎田の周りにいるのがまた、嫌なやつらばかりで、序盤は特にイライラもやもやとさせられました。
特に軽音楽部部長の志鷹。いやもうひどい。イケメンリア充だし、自信過剰だし、あくどいし、やり方はせこいし、小物感たっぷりなのに、学校中が兎田ではなく彼の味方をする。
でも、敵に回した相手がこんな男だからこそ、読者は心の底から兎田を応援できるのだと思います。
クラスメイトの美少女・千咲がまたいい味を出していましたね。別にマゾっ気があるわけではありませんが、この展開は最高。
兎田が追い詰められれば追い詰められるほど、ロックンロールに込められた彼の思いは、叫びは、大きくうねって、私たちの心に突き刺さるのです。


兎毛成たちに頼ってばかりいた兎田が、自分で最後の反撃を決めてくれて、本当に嬉しい。
傍目には何も変わっていないようでも、兎田は、そして兎毛成は、大きく前に進むことができました。
思わず兎田と一緒になって、こう言ってやりたくなりますね。
少々口が悪いですけれども……こほん、「ざまあみやがれ!」。
ああ、すっきりした。気分爽快。もうこのひと言だけで、言いたいことは全部言えたような気がします。
兎田や兎毛成たちがこの先どうなっていくのか、なんとも気になるところですが、続きはあるのかな。一瞬の、ひときわの輝きで終わるのも、また美しいものですけどね。
続編か新作か、どちらにせよ、次も楽しみにしています。


イラストはkyさん。クールな絵柄が、作品によく合っていたと思います。
特に、兎田と対峙した志鷹の顔がとても良かったですね。


兎毛成のおでこに心くすぐられる。