まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く

R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く (このライトノベルがすごい!文庫)

R.I.P. 天使は鏡と弾丸を抱く (このライトノベルがすごい!文庫)

ストーリー
自らへの攻撃を、相手へと反射させる能力を持つフィリップ・リーダス。
彼はふとしたことから、襲撃者に狙われている家族思いの少女、アンジェリーナ・レインと出会う。
行きがかり上、仕方なく彼女を助けたフィリップだったが……。



第2回このライトノベルがすごい!大賞<優秀賞>受賞作品。
少し前(多分)のアメリカを舞台に、すかしたやる気のないヒーローが女の子を救うお話です。
古いけれど色あせない映画を見ているような感覚でした。そういう映画に詳しいわけではないので勝手なイメージですが、マフィアだの、モーテルや映画館のある街並みだの、いちいちそれっぽい。
こういうのをハードボイルドものっていうんですか? これまた詳しくないジャンルですが……。


地の文は主人公・フィリップの視点で語られます。どうやらフィリップの手記ということらしいですね。
語り口調は、何もかもどうでもいい、という厭世的なもので、フィリップの生き方、生への考え方がにじみ出ています。
始まりは唐突でした。なぜかフィリップがいて、そこにアンジェリーナもいて、外にはマフィアがいて。
よく分からないままに、フィリップがよく分からない能力でマフィアを倒してしまう。
詳しいことは何も分からないのだけれど、フィリップの語り口のせいでしょうか、いつの間にかお話にのめり込んでしまっていました。
このフィリップがとにかく格好良い。というかクール。超クール。
拳銃を持ったマフィアの群れから、煙草片手に、いかにも面倒くさそうに女の子を助けだす。
かと思えば、レストランの黒人ピアニストと、きざなやりとりを交わしたりして、意外にロマンチストな一面を見せる。あえて古いことばを使うなら、実にいかしてる。
面倒だ面倒だと思っていながら、アンジェリーナに頼まれてついつい手を貸してしまうあたりには、普段は口調のせいで隠されているフィリップの温かみ、人間味を感じました。
アンジェリーナは快活で元気が良く、好奇心旺盛な女の子。
フィリップとは真逆に近い性格をしているけれど、だからこそぴったりの「相棒」という感じですね。自分から危険に飛び込んでいくアンジェリーナは、「ヒロイン」というよりも、そっちの方が合っていそう。
謎に包まれてはいるけれど、自分を助けてくれるフィリップに次第に惹かれていくアンジェリーナは、年相応の少女らしく可愛かったです。危険な男はモテるよなあ。


終わりに向かうにつれ、次第に明かされていくフィリップの秘密。登場する黒幕。
物語の結末は見事でした。結構血みどろのストーリーだと思うのですが、終わり方はもの静かで、綺麗に閉じられています。
続きは出るのでしょうか? これで終わっても全然構わないくらいですけれど、続きが気になるのも確かですね。
次巻にしろ、新作にしろ、楽しみに待ちたいと思います。


イラストは前田浩孝さん。水彩風の印象的な絵柄が作品に合っていますね。フィリップの流し目が実に色っぽい。
文中イラストが全部見開きというのは珍しいんじゃないでしょうか。


アニメ化よりも実写化が似合いそうです。普通に見たい。