まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

僕と姉妹と幽霊の約束

僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)

僕と姉妹と幽霊の約束 (このライトノベルがすごい!文庫)

  • ストーリー

霊感体質の高校生・結城クロは、ある日の放課後、同級生だった長谷川紫音の幽霊と出会う。
紫音を成仏させるため、彼女の心残りを解決しようとするクロ。
だが、紫音はその提案を一蹴し、命令口調で「私を生き返らせなさい」と言い放った……。


第2回このライトノベルがすごい!大賞<優秀賞>受賞作品。
面白かったです! 切なさ満開なのですが、それほど重すぎず、しかし胸にじんわり染みてくる、とても好みのお話でした。


霊感体質で幽霊が見える少年・クロが、夕暮れの教室で、元同級生で友達だった女の子・紫音の幽霊に出会うところから物語が始まります。
とある理由から、幽霊には関わらないようにしていたクロですが、この出会いをきっかけに、学校にいる幽霊たちの心残りを探し、成仏させていくことになります。
死んでしまってから長く経って、何が心残りなのかさえ忘れてしまっているのに、その何かをずっと求め続けている幽霊たちはなんとも哀しく虚しいもの。
それでも成仏していくとき、彼らの顔には笑みがあって、見ているこちらの方までどこか嬉しい気分になりました。
お話の中心は、学校の幽霊たちから、次第に紫音本人へ。
クロと共に他の幽霊を成仏させていくうち、次第に風化し、記憶を失っていく紫音。
彼女を成仏させたいのだけれど、それ以上に一緒にいたい。クロの気持ちは板挟みです。
一度失った大切な人を取り戻すことができたのに、もう一度失わなければならないというのは、一緒に過ごしてきた人にとってどれほど辛いことでしょうか。
しかし成仏させなければ、記憶を失うか消えてしまうかという運命が待っていて、どちらにしても別れは免れないのです。ああ。


この作品の大きな魅力が、クロを取り巻くキャラたちの人間関係です。
まず実にいい味を出していたのが、クロの3人の姉妹たちですね。
おっとり天然だけれど物語でとても重要な役目を果たす藍子。
つんつんしているけれど実はいつもクロのことを見ている、可愛さでいえば一番の緋色。
無邪気で小悪魔、でも泣き虫で深い感情を持っている黄。
クロと同じく霊感体質の彼女たちは、幽霊へのそれぞれの考え方や思いがあって、クロへのそれぞれの愛情がありました。
漂うシリアスムードの中、姉妹の快活さやクロとのおかしなやりとりが、ちょっとした明るさをもたらしてくれています。
そしてもう一組。クロと、紫音と、クロの親友で紫音の幼馴染みである志郎。男ふたりに女ひとりときたらもう、お決まりといっていい展開ですけれども。
ずっと紫音のそばにいた志郎に、クロは引け目を感じていて、でも今幽霊になった紫音と一緒にいられるのはクロの方で……いやあ、きゅんきゅんしますね。
この3人の関係が本当に花開くのは最終章。この最終章は本当に凄かった。鳥肌ものです。
志郎の想い、紫音の気持ち、そしてクロの決意から目が離せません。


読み終わってもまだ胸がどぎまぎしていて、ほっと息をついたら何かぐっと込み上げてくるものがあって、しばらくぼうっと呆けてしまいました。
なんだろうなあ、途中まではそうでもなかったのに、やっぱり最終章で一気に持って行かれた感じです。
切なくてちょっと苦しくて、でも綺麗で優しくて、登場人物みんなの幸せを願いたくなる作品でした。
続きがあるのかは分かりませんが、願わくは、また紫音の笑顔が見たい。期待しておきます。


イラストはみよしのさん。物静かな絵柄が物語に合っていたと思います。
ピンナップの夕焼けは雰囲気があっていいですね。


各章題とキャラの色が関係付けられていたんですね。さりげないところまで素敵だなあ。