まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

GOSICKⅧ下―ゴシック・神々の黄昏―

  • ストーリー

監獄<黒い太陽>に幽閉されていたヴィクトリカは、母コルデリアの身代わり計画により脱出。
ロスコーとともにソヴュールを離れて海の彼方へと旅立つ。
徴兵された一弥は、彼女を思いつつ戦場の日々をひたすらに生き延びてゆくが……。


この愛しい作品も遂に最終巻を迎えました。帯やあらすじには「ミステリ」と銘打ってあるけれど、やはり主軸は謎解きではありません。
古きものが新しきものへと移り変わる激動の時代を超えて、少女と少年が再び出逢うまでの、壮大な愛と絆のお話でした。
最初から最後まで、他の誰でもない、ヴィクトリカと久城、ふたりのために描かれた物語だったのだと思います。


絶対的な窮地から、母の思いを背にして抜け出したヴィクトリカ
まともに外を出歩いたことさえほとんどない彼女が、ブライアンの手助けを借りながらも、故郷・ソヴュールを後にする。
未練やためらいもありました。ただ追われているだけなら、外国へ行く勇気だって出なかったかもしれない。
それでも彼女には、海の向こうで会わなければならない人がいます。
獣だったはずのヴィクトリカに、ある気持ちを芽生えさせた少年。大切な彼女の黒い死神。
今までは彼の方から会いに来てくれました。今度は彼女から、世界中どこにいるかも分からない彼に会うため、旅立ちます。
ちっちゃくて弱々しくて、ひとりでは何もできないように思われたヴィクトリカが、久城のために一歩を踏み出す姿に、胸がじんとしてしまいました。
一方の久城は、戦場のど真ん中。さっきまで話していた仲間が次の瞬間に倒れていく極限状況。
そんな戦地で瑠璃へと宛てた手紙から、両親や兄、姉、そしてヴィクトリカへの想いが伝わってきます。
愛する者のために生きて帰ってくれと願うのだけれど、命の危機は確実に迫ってくる。
張り詰めた緊張感が息苦しく、手に汗を握らずにはいられませんでした。


ペンダントと指輪が素敵なはたらきをしていました。お互いに贈りあった大切な品物が、偶然にもお互いを助けあう。
この小さな品物にこめられた想いが愛する人を救ったんだ、なんて、ちょっとロマンチックに考えても構いませんよね。
これらがあったからこそ、あの結末を迎えられたのだと思うと、なんとも主人思いの品物ではありませんか。
もうひとつ、とても印象的だったのが風です。ことあるごとに風の描写があって、まるで私が風に乗って世界中を見て回っているような気にさせられました。
作品全体ではどうだったか、いまいち覚えていないのですが、前巻でも風がよく吹いていたように思います。
この風はどんな意味を持っているんでしょうね。新しい時代を招き入れる歓迎の風か、古い時代を送り出す告別の風か、もしくはその両方なのかなあ、なんて思いましたけれど。
世界が変わっても、風は変わらずに吹き続けて、誰かのもとに届きます。人の思いもきっと。


サブキャラ陣の活躍も忘れてはいけません。
最後まで娘を陰から支え続けたコルデリアと、彼女への愛に生きたブライアンたち。
戦争の中、自分らしさを失わずに生き続けたアブリルと、とある勇気を見せたフラニー。
中でも、恐れ、嫌っていた妹を助けながらも憎まれ口を叩き、帰ってからも初恋の君の命を救ったグレヴィールは、ずるいくらいに格好良かったですね。
今後が気になるキャラもたくさんいるけれど、これでお別れです。幸せを、もしくは、幸せだったことを祈りたい。


本編ラストからエピローグまでは本当に素晴らしかったです。
時代、場所、姿、変わってしまったものは多いけれど、大切なものは変わっていなくて、より光を増してきらきらと輝きました。
物語はこれで幕を閉じますが、ふたりの物語はまだまだ続きます。目を閉じれば、文句を言い合いつつも仲良く寄り添うふたりの姿が浮かぶではありませんか。
魅力的なキャラに溢れ、謎解きも楽しく、どこか神秘的で、大きな世界を描きながらも、人々の確かな愛と思いを伝えてくれた物語でした。
出会えてよかった。大好きでした。ありがとう。


それにしても、ああ、イラスト付きで読みたいものです。きっと出してくれるよね。期待してます。