まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

僕の妹は漢字が読める

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

  • ストーリー

二十三世紀。世の中には二次元と萌えが溢れ、文章からは漢字が消えていた。
小説家を志す高校生イモセ・ギンは、妹のクロハとともに、敬愛する大作家オオダイラ・ガイのもとを訪れる。
ところが実際に会ってみたオオダイラは妹の方に興味津々で……。


キャッチーなタイトルとぶっ飛んだ内容で話題をかっさらっていった、第5回ノベルジャパン大賞<銀賞>受賞作品。
いやあ、確かに多少突飛といいますか、ユニークですけれど、とても楽しく読めました。


舞台は23世紀の日本。漢字が使われなくなり、ひらがなとカタカナだけで文章が綴られている、という設定です。
「正統派文学」と称されている文体が凄い。もうこれは、なんと言ったらいいのか。
ポエムのようでもあり、一周回って哲学的でもあり、パッと見では幼稚園生の書いた文章のようにも見えるけれど、幼稚園生には絶対に書けないであろうこの内容。
ああ、説明しようにも、とてもことばが足りない。もどかしい。しょせん私は21世紀人であった……。
公式で試し読みが公開されているのでぜひともご覧あれ。これが未来の文章なのです!


この正統派文学に心酔している主人公・ギンの言動や感性には笑わせられました。
明らかにただの変態であるオオダイラ先生を全肯定したり、オオダイラ文体に涙を流したり。
私たちから見ればかなりおかしいけれど、本人は心から本気でやっていて、しかも世間的にそれが普通だというのだから、未来人あなどれない。
ギンの義理の妹・クロハがいいツッコミ役として働いてくれています。
ギンと同じく23世紀に生きていながら、漢字を読み、正統派文学に疑問を示す、わりと私たちの考え方に近い彼女のおかげで、落ち着いて読んでいられるような気がしますね。
とにかく周りがボケ倒しているので、クロハがいなかったら収拾がつかなかっただろうと思います。


23世紀の文学事情が語られる序盤を過ぎ、いきなり起こるタイムスリップ。
ギンにクロハ、オオダイラ先生、そしてクロハの妹・ミルの4人は、まだ漢字文化の残る21世紀へと飛ばされます。
萌えと二次元だらけの文化に慣れたギンたちが、街中や学校で21世紀の文化に触れて騒ぐ姿が実に愉快ですね。
21世紀で出逢う美少女・紬は、ある意味誰よりも不思議なキャラでした。
漢字が全く読めず、学校で萌えやパンツの素晴らしさを滔々と語るギンは、21世紀人からは正直痛々しく見えるかと思うのですが、紬はそんな彼に好意を抱いてしまいます。
まあギンも褒めようと思えば、自分に正直で隠し事ができないタイプ、とか言うことはできるけれど、やはり紬は少々変わった好みの持ち主だと言わざるを得ません。
そして紬だけではなく、クロハさえも。蓼食う虫も好き好きというけれど、好きになっちゃったものはしょうがないよね。
クロハの気持ちに気付く柚と、それを必死で隠そうとするクロハ、そして何も分かっていないギンのやりとりにニヤニヤしました。


終盤のストーリーがまた大変。色々なものを慌ただしくぎゅっと詰め込んで一気に放出した感じです。
先の読めない展開は好きですね。物語に思う存分振り回されたくなります。
これだけ暴れておきながら、最後はちょっといい話風になっているのがまた面白い。
そして事件が全く解決していない! ええい、次巻はまだですか。続きが気になって仕方ないのですが!


イラストは皆村春樹さん。赤面顔がとても可愛らしいですね。
ツインテール美少女はオオダイラ先生でなくてもぎゅっとしたくなる愛らしさですが、中身が、ああ、中身が。実に残念。


オオダイラ文体で感想を書こうかとも思ったのですがすぐに諦めました。私は23世紀の文豪にはなれないようです。