まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

小説家の作り方

小説家の作り方 (メディアワークス文庫)

小説家の作り方 (メディアワークス文庫)

  • ストーリー

駆け出しの作家・物実のもとに初めて来たファンレターは、小説執筆指南の依頼だった。
なんでも、「この世で一番面白い小説」のアイデアを閃いたが小説の書き方が分からないということらしい。
悩みながらも物実が出向いた喫茶店にいたのは、世間知らずでどこかズレている女性・紫で……。


安心と安定の野崎作品でした。やっぱり好きだなあ。
初めから中盤までは、「この世で一番面白い小説」なる謎はあるものの、何が起こる様子もなく、まったりとした日々が描かれます。
凄いと思うのは、先をにおわせるような要素が本当に見当たらないことですね。
今から考えればいくつも伏線が張られていたのに、それを伏線だと思わせない自然な流れがあって、正直少し退屈なくらいに事件性がない。
そんな状態からいきなり予想外の方向に話がぶっ飛ぶものだから、その落差に惚れぼれしてしまいます。
気付けば序盤の倍くらいのスピードでページをめくっていて、そのまま一気に読み終わっている。
ぶっ飛ばされて驚いている間に、もう一度別の方向にぶっ飛ばされるっていうのが大きいですよね。
驚きを一度では終わらせないというのが今まで読んだ野崎作品に共通していることだけれど、何度やられても心地いいものです。


「この世で一番面白い小説」ってどんなものなんでしょうか。
本を読む者の端くれとして読んでみたいような、読むのが怖いような。
作中に「世界を変えてしまうポイント」という表現がありましたけど、そんなものを読んで、果たして正気を保っていられるのか。
なんというか、“今この世には存在しないけれどいつかどこかで実現しそうなもの”の恐ろしさと言いますか、こういうのは上手い発想だなあとしみじみ感じました。


主人公の物実はキャラ造形が上手い作家のようですが、この作品のキャラもなかなか魅力的でした。
やはり注目すべきはミステリアス美人の紫さんですね。
そのままでも素敵だとは思いますが、彼女の秘密が明らかになってから、さらに魅力値が大幅アップします。
彼女がどんな気持ちで物実と会っていたのか、考え始めるとどこまでも妄想がふくらんでいきそうです。
紫さんに対する物実の理解の深さがまたねえ。いいんですよねえ。
敢えて、彼女は「ヒロイン」だと言ってもいいんじゃないかと思います。まあ、色々と障害はありそうだけれど。


それにしても綺麗に終わってくれたなあ。
読みながら思いついたちょっとした疑問全てに答えを出してくれたような気がします。
終わり方が今までになく清々しかったせいか、不思議ともやもやが残っていないし、いいものを読んでほっとする気持ちでいっぱいです。
次作ではどのような驚きを見せてくれるのでしょうか。とても楽しみ。


あとがきのラストにぐっと来ました。本当、最後の最後までやってくれるね。