まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

花咲けるエリアルフォース

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

  • ストーリー

戦争で街を焼かれ、家も学校もみんな失った少年・仁川佑樹。
東京の中学校に転校する当日、彼を迎えに来たのは、桜色に輝く不思議な飛行兵器とパイロットの少女・桜子だった。
桜とリンクした戦闘機の適合者として超兵器《桜花》のパイロットになった佑樹は、次第に激化する戦争へと巻き込まれていく……。


戦争で全てを失った少年が、謎めいた飛行兵器に乗せられ、戦場の空を舞う物語。
桜色の光を撒き散らし、美しく空を駆けて敵を殺す少年少女があまりに悲しい。
戦争を描いた作品はどうしても重くなってしまうものだけれど、主人公たちがまだ中学生であるということを考えると、彼らに降りかかった運命がさらに苦しく辛く感じられます。


皇国軍の切り札として選ばれ、戦友となった現・元パイロットの少年少女たち。
それまでの佑樹は何に対しても無関心。桜子はその生い立ちからくる孤立を強いられていました。
そんな彼らが訓練や学校で共に過ごすうちに少しずつ打ち解けあい、確かな絆を築いていく様子が素敵です。
お互いの名前を呼び合って、一緒に買い物に行って、お花見をして、一見とてもほのぼのとした、優しくて穏やかな日々。
しかしあくまで今は戦時中であり、彼らは一先に立って戦うパイロットです。
このような日常がいつまで続くのか全く分からない。もしかしたらこの後すぐに砕け散ってしまうかもしれない。
とてもやりきれない思いがありますが、先が読めず、常に緊張感が漂っているそんな状態だからこそ、この平和がより大切なものに感じられるのかもしれません。


4人の少年少女は、それぞれの心にそれぞれの悩みと痛みを抱えています。
桜子は自分の特別な立場ゆえに全てを背負い、大切な友を悲しむことさえ自分に許そうとしませんでした。
佳織は表面的に明るくふるまいつつも、敵側に捕らわれた父の影を追い続け、苦しんでいました。
神楽はとある理由から神社を離れることができず、パイロットの皆をいたわりながらもうらやんでいました。
そして佑樹は、どうしようもない運命に翻弄され、何も出来ない自分に歯噛みし、何度もふさぎこみました。
9本のソメイヨシノによってつながっていても、お互いのことを想っていても、避けることの出来ないすれ違い、そして。
勇気を持って一歩踏み出せなんて、読者だから簡単に言えるけれど、彼らにとっては何よりも重いことばだったろうと思います。
踏み出すこともできず、かといって逃げ出すこともできず、ただただ苦しむ佑樹を見ていると息が詰まりそうになりました。


長い戦いの末に、一緒にいられた人、一緒にいられなかった人。
楽しい物語だったとは思いません。清々しい物語だったとは思いません。ああ、それでも。
どこまでも重く切ないこの物語の最後で散ってゆく桜は、彼らに少しでも救いを与えることができたのでしょうか。
そう、信じたい。


イラストはるろおさん。近未来的な桜花のデザインが格好良いですね。