まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

煉獄姫

煉獄姫 (電撃文庫)

煉獄姫 (電撃文庫)

  • ストーリー

異世界【煉獄】に満ちる有害な大気を意志の力で森羅万象へと変化させる技術、煉術が発展した世界。
瑩国の第一王女であるアルテミシアは、煉獄へ繋がる扉を身に孕み、近寄る者すべてを殺してしまう特異体質の持ち主だった。
ところがある時、幽閉されていた彼女の前に、煉獄の毒に対する耐性を持った少年・フォグが現れ……。


存在するだけで周囲に死をもたらす姫・アルトと、唯一害を受けずに彼女に近づくことができる少年騎士・フォグの物語です。
体質のため、外に出ることが許されず、ごくたまに外に出られるときは任務で他人を殺すときだけ、というアルト。
彼女は幼い頃から囚われの身であり、ほとんど他人と接することがなく、また彼女にとって人は「自分が殺すもの」であるために、人間を人間として見ることができません。
その心の中には、わずかに、世話役のメイド・イオ、父である国王、そしてフォグの3人がいるだけ。
さらにその体質のせいで、大好きなイオにさえ近づくことができないのです。
なんと悲しく、むごい人物設定なのでしょうか。
愛しているからこそ触れられないというジレンマ。アルトの気持ちを思うと胸が痛い。
そんな中で、ただ1人彼女が触れることのできる相手であるフォグが、彼女の心の支えになったのは当然と言えます。
檻のような部屋から外に出て、フォグと手を繋いで歩くことを楽しみに、アルトは「次の任務はいつか」と繰り返します。
誰にも触れられない彼女にとって、手を「繋ぐ」というのは特別な行為で、しかもその相手が、自分が心から大切に思っている人なのだから、やはりそれは本当に嬉しいことなのでしょう。


勇気を出して作った、新たな友人との交流。
喜びと驚きに満ちたアルトの様子は、見ているだけで優しい気持ちになってきます。
やっと彼女にも、ほんの少しだけ、素敵な未来が見えた。そう思ったのに、ああ、もう、言葉にならない。
なぜここまで救われないのか。運命はどこまで、彼女に辛く鋭く当たってくるのか。
彼女に、せめて人並みの幸せを。そう願わずにはいられません。


煉術や国家間の情勢など、細やかな設定が魅力的です。
伏線の張り方も実に綺麗ですね。終盤の伏線回収では衝撃的な事実が次々と明かされて、何度も度肝を抜かれました。
終章で登場する予想外の人物と、大きくふくらむ謎。
次巻ではさらに世界が広く描かれていきそうな予感がします。続きが実に楽しみ。


イラストはkaya8さん。透明感のある絵柄が作品にぴったりだと思います。
表紙の煉術陣のデザインがとても素敵ですね。