まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

東雲侑子は短編小説をあいしている

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

ストーリー
何事にも無気力、無関心な毎日を過ごす高校生、三並英太。
ある日彼は、同じ図書委員の東雲侑子が、プロとして活動する作家だということを偶然知ってしまう。
その秘密のために、東雲からあるお願いをされる英太だったが……。



ずいぶんと評判がいいようだったので、2巻が出たタイミングに合わせて手に取ってみました。
まず表紙が素晴らしいですね。イラストもさることながら、大きく自己主張しながらもうるさくない、透明感のある題字が素敵。一目見て惹かれるデザインだと思います。
いざページをめくっていくと、あまりくせの感じられない素直な文章で読みやすく、物語に促されるまま、どんどん読み進めてしまいました。
ああ、これは確かに面白いなあ。とても好きなお話ですね。


なんとなく入った図書委員会で、たまたまカウンター当番の相方になった女の子。
別に好きなわけじゃないのだけれどちょっと気になる、そんな女の子の秘密を知ってしまったことから、英太と東雲の不思議な関係が始まります。
女の子との秘密の共有……これだけできゅんきゅんしてしまうのに、長編小説の取材をするために擬似恋人になってくれなんて頼まれたら、もうこれはいけません。そりゃあ、このまま恋に落ちるしかないでしょうよ!
擬似恋愛のはずだったのに、本当の恋へと移り変わっている。その流れの持っていき方がとてもうまいなあと思いました。
過去の経験から恋愛に対して臆病になっている英太。東雲との関係を続けるうちにいつの間にかそれを克服し、自分が新たな恋をしていることに気付いていきます。
初めのうちこそあくまで取材に付き合っているという名目なのだけれど、手をつなぐのは楽しく、ふと見せる東雲の笑顔は可愛く見える。ああ、恋が芽生えたんだなあ、ということがまっすぐに伝わってきました。
でも、東雲は何を考えているのか分かりづらいところがあるし、やっぱり恋人のふりをしているだけに過ぎないという意識があるから、いくら東雲が楽しそうにしていても、彼女の方に特別な気持ちがあるのかどうか、いまいち自信が持つことができない。
兄にコンプレックスを持っているせいで、東雲が少し兄のことを褒めただけで、すぐに不機嫌になってしまう。
そんな、不器用で自分勝手な英太が結構好きです。だって彼は、恋をしているのだもの。少し不器用なくらいでちょうどいいんじゃないかな。


簡単に作った関係は、簡単に終わってしまうもの。
でも、それで全てが終わってしまうわけじゃありません。どちらかが一歩近よるだけで、また始めることができるかもしれません。
もしかしたら相手も、自分と同じく、また始めたいと思っているかもしれないのですから。
どちらかというと控えめな、英太と東雲。ふたりを再びつなぎなおしたのは小さな勇気です。新たな道を歩みだした、ふたりの今後に乾杯。
甘くもほほえましく、じれったくて愛おしい、とても気持ちのいい恋物語でした。続きも早いうちに読みたいと思います。


イラストはNardackさん。東雲の微妙な表情の変化が良かったです。
もっともっと色んな顔の東雲が見てみたいですね。


西園幽子さんの短編集はいつ発売されますか?