まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『ミウ -skeleton in the closet-』感想

ミウ -skeleton in the closet- (講談社タイガ)

ストーリー
就職を前に何も変わらない灰色の日々。あたしは何気なく中学の卒業文集を開き、『母校のとある教室にいじめの告発ノートが隠されている』という作文を見つける。それを書いた元同級生が自殺したと知ったあたしは、その子のSNSのパスワードを暴いてログインし、その子の名でSNSを再開した。数日後、別の元同級生が謎の死を遂げる。灰色の日々に、何かが始まった――。

その2人、危険。
自殺した元同級生のSNSアカウントを生き返らせてみた……そんなイタズラが思わぬ事件へと発展していくロジカルサスペンス。
面白かった! 短いページ数の中に幾度もの驚きと背すじがゾクッとする展開があって、のめり込むようにして読まされました。
乙野先生の作品は何冊か読んで、巧い作家さんだとは思っていましたけど、中でもかなり洗練された1冊ではないかと思います。


大学を卒業し、就職も決まっているものの特に華があるわけでもない人生を送ろうとしている語り手の千弦。彼女はある日たまたま見つけた卒業文集で元同級生・田中奈美子の作文を読み、その内容が気になってしまい、その子のことを調べる途中で彼女が自殺してしまっていることを知る……。
発見した田中奈美子のSNSアカウント。気付いてしまったそのパスワード。自殺した元同級生のアカウントを乗っ取って「生き返らせる」……。ただの興味本位でやってしまうには、なんというか少々危なすぎるイタズラに、読んでいるこちらとしては気が気でない。
やがておかしなダイレクトメッセージが届いてから事態は急展開、読んでいて手が震えちゃってもう! 背中がゾクゾクさせられっぱなしでしたわ!


かつて千弦にとあるトラウマを植え付けた元同級生・ミユ。そんな彼女と思わぬ再会を果たした千弦は、彼女と自分の奇妙な関係性に気付く。
初めこそミユの変人っぷりばかりが目立つけれども、実は千弦の方も普通の人の仮面の下にかなりの変わり者の顔を持っていて、そんな変人2人が織りなす奇妙なお話の展開からまたしても目が離せない。
二転三転する予想と、やがて暴き出される真実と、そしてその向こうにあるもうひとつの真実と。うーん、見事見事。完全にしてやられたー!
第五章のオチの付け方と、それから終章で描かれる千弦とミユの関係性がまた格別でしたね。ずっと後を引きそうな舌触りの、素晴らしい読後感でした。満足。


表紙の千弦ちょっと美少女すぎない??

『キングメイカー! ―戦野の隅の大英雄―』感想

キングメイカー!  ―戦野の隅の大英雄― (GA文庫)

ストーリー
「やめてくれ! た、助けぇえぇ!」観客の盛り上がりが選手の力に変換されるバトルスポーツ・ヨルムンガンド。その日、六道昴哉は“命乞いの演技”によって『ピンチに駆けつける味方の登場』を演出。チームを勝利に導いた。だが彼は――(俺は駆けつける側がやりたい!)内心ブスブスくすぶっていた。そんな彼はある日、軍事の名門・長舟家から家出してきた剣豪少女すばると出会う。無一文で出てきたすばるは、お金を稼ぐために昴哉のチームに入ることになり――!? 《歩兵》の少年が、少女を助け真の《英雄》へと翔け上がる!! 劇場型バトルアクション、開幕!

第9回GA文庫大賞<優秀賞>受賞作品。観客の盛り上がりによって戦闘力が上がるバトルスポーツで雑魚の一兵卒として伸び悩んでいた主人公が、真の剣豪の少女と出会い英雄への道を切り開いてゆくバトルアクション。
他人を引き立てることは上手いのに自分が目立つことは苦手……そんな不器用な主人公が、仲間に背中を押され、ライバルに叱咤され、何度も転びながらも上を向いて走っていくのが熱いお話でした。
ヒロイン候補が多くてわりとガチで絞りきれないな……なお聖さん推しです。


観客の声援が選手たちの魔力に変換されるチーム戦バトルスポーツ・ヨルムンガンド。いかなる強者であってもドラマチックに盛り立てられた弱者の前に膝をつくこともある、ただの力勝負ではない、そんな独特の競技感覚が面白いですね。
主人公の昴哉は、そんなヨルムンガンドで万年一兵卒の雑魚キャラ少年。目立ってナンボの競技なのに他人を目立たせる作戦を練ることばかり上手いという我の弱さと人の良さが、長所でもあり短所でもあるというか。
ともに故郷から出てきた相棒の少女・サキはすでにチームの要たる「英雄」の役目を担っているというのに、いつまで経っても昴哉の方は歩兵のまま。せっかくの機会もチームのため、他のメンバーのためにフイにしてしまうあたり、いい奴ではあるんだけどなんだか惜しいなあ……と思わせられる主人公です。


そんな彼の前に現れた、現代まで残る武家の名門の令嬢にして本当の剣豪少女・すばる。無邪気でとても愛らしい少女ながらその剣の腕は抜群。こういう天真爛漫な最強少女って大好きなんです。ロマンがあるよね。
ヨルムンガンド最強と名高い剣士にして昴哉の憧れの存在・聖もそのタイプで、個人的にはこのヒロインが特に好きでした! 圧倒的強者でありながら決して驕らず、すばるとの一騎打ちをハンデなしで始めちゃうようなバトルマニアっぷりに痺れます。
それから、昴哉の帰りを下宿先で待ち続ける第一正妻候補の綾も捨てがたい。きょうだいみたいな感覚なのに実は昴哉にベタ惚れなあたりにストレートな萌えを感じるー! これはズルいヒロインだぜ……。
もちろん、長年の相棒でありライバルでもあるサキだって強力なヒロインだし、本当にこの中の誰とくっついてもおかしくないくらい。
そんなヒロインたちと、もちろん他のチームメイトに支えられ、次第に演出家としての才能を開花させてゆく昴哉。
誰かを輝かせるのもいい。でも一緒に自分が輝くのだって目指してもいいんだ。弱くて情けない主人公が、「主人公」になっていくストーリー。王道ながら、だからこそ燃えますなあ。


イラストは柴乃櫂人さん。聖さんめっちゃ格好良い! お前が一番だ!
しかし綾の笑顔も破壊力高いな……うーんやっぱ迷う(笑)。


九章までで綺麗に終わっていたと思うのだけど、終章の内容はこの巻に入れなければならなかったんだろうか……?

『魔弾の王と凍漣の雪姫』感想

魔弾の王と凍漣の雪姫 (ダッシュエックス文庫)

ストーリー
弓は臆病者の武器。祖国でそういわれ続けてきた少年は、少女の言葉によって己の進むべき道を見いだし、守るべきものを得た。二年後、ブリューヌ王国はジスタートと同盟を組み、大国ムオジネルと開戦する。ティグルは病に伏せた父ウルスに代わり、初めての戦場へと向かった。戦争は順調に進んでいるかのように見えたが、奇襲を受けブリューヌ軍は戦線崩壊する。敗足するティグルの部隊。その窮地を救ったのはオルミュッツ公国の戦姫、リュドミラだった。二年ぶりの再会を喜ぶ二人。しかし、その行く手には新たなる戦いが待ち受けていた。戦乱の世を舞台に、伝説の時代より続く闇の勢力との戦いが、今はじまる!!

魔弾の王と戦姫』の世界を舞台に、リュドミラをメインヒロインに据えて前作とは異なるストーリーを描いていくリスタート戦記ファンタジー
これは面白い試み! 前作も(途中で止まっちゃっているけれども)かなり好きな作品だったのですが、ただひとつ「リュドミラがヒロインだったらなあ!」とは常に思っていたのです……。でもまさか本当にリュドミラ推し救済の新作が出るとはね!
ティグルとミラ、序盤からかなりイチャイチャしていてニヤニヤが捗りました。色々と前作とは違う部分も多いのでストーリーの変遷に期待ですね。


ブリュームとジスタートの連合軍 vs ムオジネル軍との大戦の中、かつて想いを伝えあった戦姫の少女との再会を果たす青年ティグル。
いきなりずいぶんと大規模な戦から始まりました。まあティグルは数万の軍の端っこで50人を指揮するだけの地方貴族に過ぎないんですが。
この人数ではさすがに計略どうこうでどうにかなるものでもないので、そこはお預けとして。冴えわたるティグルの弓の腕はこちらの歴史でも健在でございました。ムオジネルが誇る戦象を矢2本で倒してしまう鮮やかな手腕とか、誰がどう見ても凄まじいのだけれど、これが評価されないブリュームの価値観は本当に理解に苦しむな……。


物語開始当初からすでに相思相愛のティグルとミラ。長髪のミラは前作とはだいぶ雰囲気が違いますが、中身はあまり変わっていませんね。お澄まししているようで急な攻めに弱くすぐに赤面しちゃうあたりが可愛いんだ。一方のティグルはだいぶナンパ野郎感が増している気がします(笑)。
気持ちとしてはどちらも相手のことを一番に想っていて、それは揺るぎないんだけれども、オルミュッツ公国を治める戦姫と一地方アルサスの領主とではとても釣り合いがとれていないのも確か。だからこそティグルはかつてミラに誓った。その矢を願い星まで届けることを。
ティグルがこれからどのような戦果を挙げ、ミラに並び立つまでの存在にまで成り上がっていくのか。おそらく前作とはかなり異なるストーリー展開になっていくことと思いますが、比較しつつもまた別世界のお話として楽しんでいきたいですね。


イラストは美弥月いつかさん。凛々しくて可愛いリュドミラ姉様が素敵!
カラーページかなり攻めてるな……いいぞもっとやれ。


戦記ものなのに地図がないとは何事か!