まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『ミニチュア緒花は毒がある。』感想

ミニチュア緒花は毒がある。 (電撃文庫)

ミニチュア緒花は毒がある。 (電撃文庫)

ストーリー
とある事件で友達ゼロの俺が入部させられたのは、変人の巣窟「きょうがく部」。こんな部にいたら、さらに友達作りとは無縁になる、と焦る俺だったが――
「好きです、俺と付き合ってください」
「い、いい、いきなりなに言ってんの、会ってすぐ発情とかあんた下半身に脳みそついてるわけ――!?」
目つきも言葉も凶悪な、毒舌美少女、“ミニチュア毒花”こと毒嶋緒花と出会った瞬間、俺は雷に撃たれていた。
愛のささやきVS罵詈雑言。照れさせるか、心をへし折るか――。これは、一目惚れした毒舌少女に殺されながらも、全身全霊をかけて、恋に落とす戦いの記録である。

地味に初めて岩田洋季先生の作品を読んだ気がする……『護くん』のアニメ、見てたなあ。
ということで岩田先生の新作は、毒舌を撒き散らす美少女に一目惚れした少年が浴びせられる罵詈雑言にもめげずに好き好き言いまくる、毒舌とラブコールの正面衝突学園ラブコメ
毒舌が過ぎて学園中から恐れられる猛毒美少女を前にして、相手を照れされるべく言葉の限りを尽くす愛に全力な主人公がこっ恥ずかしくも清々しくていい!
終盤の展開は少々予想外の方向に胸が痛みましたが、小出しにしてきた伏線を綺麗に回収していてお見事。


昨年ある事件を起こしてぼっちになった主人公・薫が入部させられたのは、学園の特級問題児たちが揃う「きょうがく部」こと協調性獲得部。そこで彼は電撃的な一目惚れに落ちる……!
お相手は、目が合った人間には毒舌をかます狂犬のような美少女・緒花。まあ美少女ですからね、好きになるのはいいとして、他の部員や先生もいるその場ですぐに告白しちゃう猪突猛進ぶりがすごい。でもいいなあ。これくらい直感で「好き!」ってなるような恋。青春まっしぐらだなあ。
普段は学園中の生徒たちから避けられている彼女がこんな直球ストレートデッドボールみたいな告白をまともに受け止められるはずもなく、ご自慢の毒舌マシンガンで返そうとするのだけれど、薫はめげないどころか更なるラブコールで畳み掛けてくる。メンタルつえーなこの主人公!
挙げ句の果てには緒花をちょっとだけ照れさせることに成功しちゃうんだから大したもんですよ。押しまくるってやっぱり大事なんだな……むしろ意外と緒花がチョロかったということもありますが。毒舌チョロヒロインかわいい……毒舌チョロヒロインかわいくない?


薫は緒花を照れさせまくって落とすために。緒花は薫のハートを打ち砕くために。毒舌とラブコールの応酬を交わしつつの日常の中で、なんだかんだちゃんと親睦を深めていく「きょうがく部」の面々。
というか学人も姫子も、確かに扱いづらいかもしれないけれども結構いいやつで、薫と緒花の丁々発止のやりとりを生暖かく見守る学人と姫子、という構図が様式美になっていて面白いですね。それどころかだんだんと他の生徒たちにまで噂が広がっていって、順調に緒花の外堀が埋まっていくのが見える……(笑)。
このまま押されまくった緒花が愛を受け入れてハッピーエンド……という順風満帆な展開には、しかしならなくて。
思わぬところから発せられた悪意の噴出が、緒花のことを襲います。
愛する緒花のために無茶をするのはもちろん我らが主人公。過去に秘められた悲劇。起こした事件の真相。あっけらかんと愛を語ってばかりいた薫の中には実は予想外に重いものがうずくまっていて、そんな全てを赤裸々に語る彼の姿にぐっとくるものがありました。
正直なこと言いますと、僕がラブコメというものに求めているものではなかったけれども……なんか色々考えさせられちゃうし……ただ、薫と緒花の出会いがより運命的なものだったということを改めて強く感じさせられる出来事でした。
大きな壁を乗り越えて、関係性はちょっとだけ進んで、さあ、また毒舌とラブコールの戦いの日々へ。薫と緒花のやりとりだけでも本当に楽しいので、ぜひ続きが読みたいですね。


イラストは鈴城敦さん。表紙の緒花、小悪魔的かわいさでいいですなあ。
学人のイラストがなかったのが惜しい。あとエリカ先生の噂のおっぱいもぜひ(欲望に忠実)。


やっぱり自分をあだ名で呼ぶJKは地雷だったんだ……。

『六人の赤ずきんは今夜食べられる』感想

六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)

六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)

ストーリー
名声のために罪を犯した過去を恥じ、今は猟師として各地を旅する「私」。ある日、訪れた村で奇妙な警告を受ける。「森には秘薬を作れる『赤ずきん』が棲んでいる。赤い月の夜、彼女たちはオオカミの化け物に喰い殺されるが、決して救おうとしてはならない」。少女らと対面した「私」は、警告を無視して護り抜こうと決意する。だが、そのとき「私」は知らなかった。その化け物が、想像を遙かに超えた恐ろしい生き物だということを。そして、少女たちの中に裏切者がいることも――。第12回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作。

第12回小学館ライトノベル大賞<優秀賞>受賞作品。
命を懸けて六人の赤ずきんを守ろうとする猟師と、赤ずきんを喰らうべく迫るオオカミの怪物との一夜の対決を描く、サスペンスホラーファンタジー
いくつかの童話をモチーフとして描かれる戦慄の夜。うーむ悪趣味。しかし赤ずきんの秘薬を用いた怪物との知恵比べと、少しずつ謎が明かされていくストーリー展開は見事。嫌な汗をかきつつも先に進まざるをえない、読み応えのある作品でした。


年に一度、赤い月が昇る夜、赤ずきんはオオカミの化け物に襲われる。残る赤ずきんはたったの六人。オオカミは巨大でしかも非常に賢く、人間の作ったどんな策も通じない。そんな絶望的な怪物を前に、村にやってきたばかりの猟師が挑む……。
彼にも彼なりの理由があったとはいえ、出会ったばかりの年若い少女たちを必死に守ろうとするその志はとても立派だけれど、どれだけ人間ができていてもそれだけではやっぱり限界があって、守ると約束したばかりなのにあっさりと犠牲者を出してしまう。
いやあ、キツいですよ。まあある程度予想はしてましたけどね。でもキツいなあ。ちょっとでも好意を持ったキャラクターが突然こういうことになると。もちろん、だからこそ話の入り口として衝撃的なんですが。元々人が亡くなる話は苦手なもので……。
一度安心させたところに、また新たな衝撃を与えてくるところがまたエグいよ! いやそりゃ絶対このままじゃ終わらないと思ってたけど(残りページ的に)、ちょっと心臓がもたん。


こちらの持つ武器は、赤ずきんたちがそれぞれ調合する不思議な秘薬。ものの匂いを消したり透明にしたり粉々にしたり、それが六種類。
猟師が知恵を絞り、限られた物資とそれらの秘薬を組み合わせて凶悪な獣との攻防に役立てていく展開は、ファンタジー世界ならではの面白みがあって良かったです。
塔の中という地の利を活かしてなかなか頑張るんだけれど、オオカミの側も人間並みに賢いから、猟師たちが思いもつかない方法で攻めてきたりもしてくるんですわ。めちゃくちゃ怖いけれども知恵と知恵のぶつかり合いという感じでワクワクしてきます。
そしてオオカミの他にも脅威が。六人の中に潜む裏切り者……赤ずきんの命を狙う魔女の存在です。
気を抜いていると六人皆がいい子にも思えるし、逆に全員に怪しい部分もあって、難航を極める魔女探し。
そんな中、思いもよらぬやり方で明かされるその正体。全てが終わってからアレもコレも伏線だったということに気づかされて、いやここに関しては素直に天晴れという気持ちです。
恐ろしい夜の最後はあっけなく。そしてエピローグも、ピリッとアクセントが効いていていいですね。物語としてきっちりまとまっていたと思います。やっぱりこえーわ、童話って。


イラストはシソさん。もー怖い怖いこの表紙。この表情。
みんな可愛いんだけどなあ……可愛いからこそ辛いなあ……。


塔の図面だけはもう少し頑張ってほしかった。階段の位置くらい書いといてくれー。

『西野 ~学内カースト最下位にして異能世界最強の少年~ 2』感想

ストーリー
学園カーストの中間層、冴えない顔の高校生・西野五郷は界隈随一の能力者である。青春の尊さに気づいた彼は、文化祭期間を利用して彼女作りに躍起となる。だが、クラスメイトに声を掛ければ振られ、部活動に貢献するも振られ、他校の生徒に声を掛けても振られ、評判は瞬く間に落ちていく。更には文化祭の売上金を巡り窃盗疑惑を掛けられてしまう。だがしかし、隣のクラスの美少女、ローズ・レープマンだけは西野と相変わらず接していた。そこでご近所での恋愛を諦めた彼は、彼女から素敵な異性を紹介してもらおうと策を講じる。ローズの真意と、一連のいじめ騒動の裏側が、白日の下に晒される文化祭騒動の解決巻。

学園カースト最下位に転げ落ちたフツメン主人公が文化祭当日に再起を図る、孤独な学園カーストストーリー第2弾。
前巻からの文化祭編の結末が描かれるのだけれど、西野の地味な頑張りとか相変わらずクソッタレなクラスメイト陣とか、そういうのがどうでもよくなるくらいの衝撃がメインヒロインに舞い降りる! アカン、ローズ・レープマンさん……好きだ……。


徹底的にクラスの嫌われ者と化した西野。ようやくやってきた文化祭なのに、今度は売上金泥棒の疑惑をクラスメイトたちから掛けられてしまう!
はーほんと、一度「叩いていい奴」認定した相手を、よってたかって大した理由もなくとことん叩くこの人間性、見ていて吐き気がしてくるんですけど。相当誇張はしているけれども、こういうノリって確かにあるよなあ。嫌になりますね。
特にむかつくのは委員長の志水ですよ。まあ目立つからってのもありますが、お前ふざけんなよと。自分の狭い世界を守るためなら何をしてもいいんかと。別に悪気があってやってるわけではないってのがまた質が悪いですね。西野を敢えて狙ってやってるならまだね、なぜそんなことをしてしまうのかって考慮もできますが、そうじゃないんだものね。
思いっきり手痛い目に遭ってしまえばいいのにという思いがフツフツと湧き上がってくるんだけれど、当の西野は別にそんなこと思ってもいないんだよなあ。こんな仕打ちを受けてもクラスのために密かに頑張るとか、器がデカイんだか鈍いんだかわかりませんが、応援したくなってしまうわ……。


事件の初めから謎に包まれていたローズの思惑。まさかそれが、西野とクラスメイトの関係性にこんな形で関わっていたとは。
きゃーローズちゃんだいたーん! 最高! ド変態だけど最高! いやさすがの僕もローズちゃんが金髪ロリ美少女じゃなかったら気色悪いと思ったもかもしれない、でも金髪ロリ美少女だからなー仕方ないなーうん仕方ない。あとイラストの本気具合がすごい。ありがとうございます。
でもその本性を見せる相手がよりによってこいつなのかよ(笑)。肝心の相手には全く伝わっていないどころかさらに嫌われちゃってるわけだけどどうすんの。
まあ結果的に、彼女の存在が抑止力となって、少しは西野の待遇が改善されるといいなあと。今回西野は、味方がいない中で間違いなく人一倍頑張ったわけですから、何かしらのリターンがあってほしいなと思うわけですよ。バーでダンディズムに浸るのもまあ悪くないですけど、っていうかこのラストシーンは正直ちょっと格好いいなとか思っちゃいましたけど、どうか次の機会では! この不憫なフツメンにどうか光を!


イラスト内の二次元コード、ちゃんと読み込めるやんけ。芸が細かい。