まだまだペンキぬりたて

ライトノベルの感想

『《このラブコメがすごい!!》堂々の三位!』感想

ストーリー
ライトノベルまとめサイトラノベのラ猫」を運営する高校生・姫宮新。彼はとある記事作りをきっかけに、最近行われたネット小説で三位に輝いた作品の著者が意中の少女・京月陽文であると知る。彼女の投稿作品はラブコメではなかったが、ネット民の悪ふざけで炎上気味に盛り上がり三位をとった。そして、新こそがその悪ふざけを煽った張本人。だが、それを知った陽文は怒るワケでもなく、こう言った。「わたしにラブコメの書き方を教えてほしいの」まとめサイト管理人と作家志望の少女が紡ぐ青春サクセスラブコメ

前回に引き続き今年の新人賞を読もうキャンペーン。今回も絵空くん(えそら (@esoragoto) | Twitter)からのオススメです。さんきゅーさんきゅー。
第12回小学館ライトノベル大賞<ガガガ賞>受賞作品。ライトノベルまとめサイトの管理人たる主人公が、ネット小説大賞からのデビューを目指すクラスメイトの少女と関わり、グランプリを取るためのラブコメ指南をすることになるひねくれ青春創作ストーリー。
ラノベの売り上げや話題性についてのアレコレについては色々と身につまされるものがあって初めは読みづらさを感じてしまったのですが、読み終わってみれば、困ったほどに素直じゃない主人公とまっすぐなヒロインとのすれ違いが胸をきゅっとさせてくれる、後味のよい青春ものでした。


主人公・新はラノベまとめサイトの管理人。しかもウチみたいな零細とは格が違いますよ、きちんと法人化して広告収入はもとより動画制作や公式の宣伝活動まで手広く行い、月商700万を稼ぎ出すほんまもんの大手サイトです。しかも現役高校生で。うわー、嫌なヤツ!(笑)
そんな彼であるから売れるラノベにも一家言あるようで、「物語の面白さはそこまで大事じゃない」とか、まあ言いたい放題言ってくれるわけです。いやまあ、そうかもしれないけどさ! こちとら面白いラノベがもっと読まれてほしいからブログとかやってるわけで、くそ~こいつ~たかがまとめサイトの管理人の分際で~とかなんだか妙な憎しみが……。*1


「数字を追いかける」新の考え方は合理的ではありますが、いざ青春という面でみれば、いささか乾いたように思えてしまうのもまた事実。というか、はっきり言うと大人びすぎていてつまらない! 高校生ってもっと、何も考えずに走り出して壁にぶち当たって弾けてシミになったりしてほしいわけ!
そんな新の生活に一石を投じてくれるのが、新が一目惚れした少女にして作家志望のクラスメイト・陽文。
彼女は良くも悪くも普通の女の子です。ヒロインとしては少々アクが弱いようにも思えるけれど、新とその周囲の面々が濃すぎるので、対比としてはちょうどいいかもしれない。
新は彼女への好意を隠しつつ、商業的に成功するラブコメを指導していくわけだけれど、両者の距離が縮まれば縮まるほど、ふたりの価値観とかスタンスの違いが浮き彫りになっていってしまう。それは別に創作に限ったことではなくて、だからこそ「恋する」ということにとって致命的で。
別に、どちらが悪いという類のものでもないから、余計に大変だ。でもそれくらい違うふたりだからこそ、ちょっと勇気を出して壁を乗り越えたときに、これだけグッとくるものがあるんだろうなとも思うのです。
なんだか新と陽文のことに終始してしまいましたが、麻里や三郎といったサブキャラ陣の独特の動き方も含めて、不思議な面白みのある1冊でしたね。にしても「ラブコメ」ではない気がするけど(公式のあらすじを眺めながら)。


イラストはかやはらさん。なんといっても陽文のデザインが素晴らしい。これは一目惚れしますわ。
もっと色んな表情の陽文が見てみたいですね。もし続刊があるならよろしくお願いします。


ソシャゲに対しての怨嗟についてだけは新に共感できそう!(笑)

*1:まとめサイトに対して特別なヘイトを溜め込んでいるわけではありません……念のため

『錆喰いビスコ』感想

錆喰いビスコ (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

ストーリー
すべてを錆つかせ、人類を死の脅威に陥れる《錆び風》の中を駆け抜ける、疾風無頼の「キノコ守り」赤星ビスコ。彼は、師匠を救うための霊薬キノコ《錆喰い》を求め旅をしていた。美貌の少年医師・ミロを相棒に、波乱の冒険へ飛び出すビスコ。行く手に広がる埼玉鉄砂漠、文明を滅ぼした防衛兵器の遺構にできた街、大蛸の巣くう地下鉄の廃線――。過酷な道中で次々に迫る脅威を、ミロの知恵の閃きと、ビスコ必中のキノコ矢が貫く! しかし、その先には邪悪な県知事の奸計が――。第24回電撃小説大賞《銀賞》に輝いた、疾風怒涛の冒険譚!

だんだんラノベ力(りょく)が戻ってきたところで今年の新人賞に手を出そうと思ってTwitterでオススメを聞いたら真っ先にこれが上がってきたので読みました。絵空くん(えそら (@esoragoto) | Twitter)ありがとう。
第24回電撃小説大賞<銀賞>受賞作品。指名手配犯の「キノコ守り」の青年ビスコが、「錆」によって滅びかけた日本を舞台に駆け抜けるSF×バトルアクション!
いやー「疾風怒濤の冒険譚」の看板に偽りなし。未知なる世界を2人と1匹で旅しては、様々な人々と出会い、別れ、そして死にものぐるいの戦いへと身を投げていく。変わった題材ながら勢いで読ませてくれる、燃える1冊でした。


まず世界設定がたまらなく良いですね! 何もかもを錆びつかせる謎の「錆び風」が舞い、日に日に滅びへと向かう遠未来の日本。群馬県の隣に「忌浜県」なる城塞都市があったり、元々福島県だったところには「霜吹県」なる氷の大地が広がっていたりと、すっかり様変わりしてしまった日本地図がすごく楽しい。
独自の進化を遂げた巨大な虫や動物が跋扈する中、類まれなる弓とその頑強さ(あと蟹のアクタガワの踏破力)だけで強引に旅を押し進めるビスコ御一行様のハチャメチャ冒険ぶりには大いにワクワクさせられました。


一癖も二癖もあるキャラクター陣もまた素晴らしい。乱暴で無愛想ながら誰よりも仲間思いの一面を持った最強の主人公・ビスコと、医術が冴え渡る成長著しい相棒役のミロは、初めこそぎこちない関係ながらも、旅の中で幾度となくお互いがお互いを救い、そして奮い立たせあう、見事なコンビネーションを見せてくれます。
それから、ミロの姉にして自警団を束ねる女傑のパウーさん。この人好きだなあ。弟への深い愛情から自分の身を削りながらもビスコを追いかけ回すんだけれど、その猪突猛進っぷりがなんとも憎めなくていい。最初の一騎打ちを皮切りにくるくると変化するビスコとの関係もたまらなくいい。
全ての黒幕として憎しみを一手に引き入れる黒川知事もおいしい敵役だったし、敵か味方か謎の行商人チロルちゃんもチョロ可愛いキャラしてました。
メインからモブまで、誰もが明日をも知れぬ命を必死に生きている。それが、この物語全体に満ちているエネルギーの源なのではないかと思います。


1巻で綺麗に終わっていますが、どうやら続刊があるとのこと。東北を旅した今回から一路西へ、次は島根か。楽しみですね。
願わくはパウーさんの出番がほしいです! ぜひ!!


イラストは赤岸Kさん。表紙を見た瞬間に感じる躍動感。この作品にこれ以上なく合っているイラストだと思います。
チロルのデザインが好き。


アクタガワ萌えという概念、わかる(わかる)。

『ようこそ実力至上主義の教室へ8』感想

ストーリー
3学期開始と共に、高度育成高等学校の全生徒は山奥の校舎へと案内される。実施される特別試験の名称は『混合合宿』。男女別に1学年を6つのグループに分割。さらに2年、3年もグループに合流するという。最終的に所属する全生徒の平均点が高かった上位3つのグループにボーナスポイントが与えられる一方、最下位のグループ責任者は退学となるという。退学処分有りの特別試験に慄く一同。そしてグループの分け方は生徒に一任。敵同士だったはずのクラスと手を組むという感情的なもつれが波乱を生む! さらに新生徒会長の南雲、そしてあの高円寺にも動きがあるようで――!?

今度の特別試験は学年とクラスが入り交じって成績を競い合う林間学校。
男女別のせいで華がねえー!! 面倒な人間関係のあれこれも頭脳戦も、やっぱりヒロインがいないとどうもパッとしませんな……。
あと単純に名前が覚えられなくなってきて、半分くらい誰が誰だかわからない状況で読みました(爆)。そろそろキャラクター一覧がほしいです。


AクラスからDクラスまでの4クラス混合で作られた小グループと、それを3学年で組み合わせた大グループとで互いに競う特別試験。
主題として描かれたのは、クラスが違うライバルたちとどう協力していくかってところなんですけど。
何しろ同じ小グループには旧Cクラスの石崎やアルベルトもいるし、ある意味学校一の問題児たる高円寺まで。なんと厄介極まりないことか。いやー気持ちいいくらいにギスってますね。
女子陣がいればまた違った雰囲気にもなったんでしょうけど、なんたることか、今回の試験は完全男女別。しかもほとんど男子サイドしか描かれてないとか、いや正直ちょっと辛いよ! 時々出てくる軽井沢と一ノ瀬だけが癒やしだよ……。
綾小路に下の名前で呼ばれて無言になっちゃう軽井沢恵さんほんとかわいいですね。すっかり掘北や櫛田の立場を食っているし、本当にメインヒロインなんじゃないかと思えてきました。


今回ちょっと印象が変わったのは高円寺ですかね。今までは周囲に全く合わせようとしない身勝手貴族というふうにしか思えませんでしたが(そして今回もほぼそうでしたが)終盤では多少ながらグループに関わってきた部分もあって、少し意外に思いました。彼にも彼なりのスタンスがあるんでしょうが、謎は深い。
石崎も、まあ嫌なヤツであることには違いないんだけれど、ラストの方ではちゃんとやることやってくれて、幸村も含めてなんだお前らも青春っぽいことできるんじゃーん、という感じ(笑)。あとアルベルトの株はだいぶ上がりました。
そして予告どおりというか、南雲がいよいよ牙を剥きはじめましたね。どうしてこんなやつに人望があるのかサッパリなんですけどね……。堀北兄には踏ん張ってもらいたいところです。そしてもちろん、綾小路には思う存分暗躍してもらって、早いとこ南雲の鼻をあかしてやってもらいたいですね。


綾小路の俺TUEEは望むところですが、別にアレのデカさで俺TUEEしなくてもいいわ!!!